INTRODUCTIONイントロダクション
“鳴らせ。私の頭の中の完璧な音楽”
たとえ耳が聞こえなくなっても、私の頭の中には音楽が鳴り響いている……。
作曲家として人間として、劇的な人生を送ったベートーヴェン。
最後の交響曲「第九」まで、彼はどんな時間を生きたのか。
その波乱と苦悩の生涯を、主演・稲垣吾郎×演出・白井晃の最強タッグで魅せる!
甦る“不滅の旋律”
音楽の進化&深化を数十年早めたといわれるドイツの音楽家ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン。ピアノソナタ「悲愴」「月光」や交響曲第3番「英雄」、第5番「運命」など、その楽曲は、後世の音楽家たちにも多大な影響を及ぼしています。
そんな “楽聖”ベートーヴェンの苦悩の人生と創作の深層に迫り、2015年の初演以来多くの観客を感動の渦に巻き込んできた舞台『No.9-不滅の旋律-』が、このたび4年ぶりの幕を開けることが決定しました。
タイトルの『No.9』とは、ベートーヴェンが作曲した9番目にして生涯最後の交響曲第9番 ニ短調(第九)のこと。豊かな才能に恵まれる一方で、持ち前の激情や孤独感から周囲の人々や社会とぶつかり続けた男が、自らの音楽のあり方を掴むドラマのクライマックスには、やはり第四楽章の合唱「歓喜の歌」が鳴り響きます。
2018年、ベートーヴェン生誕250周年にあたる2020年と再演を重ねた本作。くしくも今回は、「第九」初演から200年の節目にあたる年の上演となります。個性豊かな登場人物たちが織りなすドラマは、時を超え、聴き慣れたあの旋律をよりいっそう奥深く響かせ、その場に居合わせる人々の心を揺るがすことでしょう。
深化し続ける稲垣吾郎のベートーヴェン
初演からベートーヴェンを演じ、回を重ねるたびに熱演を見せるのは稲垣吾郎。暴力的な父親による幼少期のトラウマに加え、複雑な性格がもたらすさまざまなトラブルに悩み、さらには創作に深刻な影を落とす病に冒された焦燥感、孤独感、その末にたどりついた境地を、持ち前の知性と繊細さをもって浮かび上がらせます。初演から9年あまり。本公演中には100ステージ目も迎える今、その人物造形はさらなる奥行き、深化を見せるに違いありません。
彼を秘書として支えるマリア役は、2018年の再演から参加し、溌剌とした佇まいが強い印象を残す剛力彩芽が続投。ベートーヴェンと対等に渡り合い、インスピレーションを与えるピアノ製作者ナネッテ役には、近年は舞台でもその実力を存分に発揮する南沢奈央が初めて挑みます。また、ベートーヴェンのふたりの弟ニコラウスとカスパールには、若手俳優として経験を重ねる崎山つばさ、中尾暢樹がそれぞれ初参加し、新たな息吹を吹き込みます。さらに片桐仁、岡田義徳、深水元基、奥貫薫、羽場裕一、長谷川初範ら実力派俳優たちの続投も得て、分厚い人間ドラマが紡がれます。
また、舞台上には2台のピアノが配され、末永匡と梅田智也のふたりのピアニストが、「悲愴」「熱情」をはじめとする20曲以上のベートーヴェンの楽曲を演奏するほか、オペラやミュージカルで活躍する実力派の声楽家20名がコーラスとして共演します。生演奏ならではのダイナミックな音楽表現にもご注目ください。
最高のクリエイターが立ち上げ、呼び起こす「歓喜」
演出の白井晃、脚本の中島かずき(劇団☆新感線座付作家)、音楽監督の三宅純を中心とするクリエイティブ・チームは、英仏の百年戦争を舞台に破格のスケールで、運命の奔流に飲み込まれていくヒロインを描き出した舞台『ジャンヌ・ダルク』(2014年初演)を皮切りに、本作『No.9』、フランス革命時の死刑執行人の苦悩を描いた『サンソン−ルイ16世の首を刎ねた男−』(2020年初演)と、足掛け10年にわたり骨太なテーマとエンターテインメント性を併せ持つ時代スペクタクルを世に問い続けてきました。
史実や実在の人物を題材に、大胆な発想の飛躍を加え、一度聴けば脳裏に焼きつく心地よい台詞で劇世界を織り上げる中島は、天才音楽家の葛藤と新たな境地へ至る道程を丁寧に紐解きます。音楽にも造詣の深い白井は、ベートーヴェンの楽曲が場面ごとに有機的に機能する演出プランを立案。そして楽曲に対する深い理解のもと、生演奏と環境音のコラージュなどを有機的に繋ぎ、作品世界を貫く「音」を生み出したのは、国内外のアーティストと数多のコラボレーションを行う三宅のマジカルな感性です。
「歓喜の歌」の合唱が劇場を満たす時、観客は時を超え、ベートーヴェンの魂に触れるでしょう。舞台『No.9』が奏でる物語は、私たちの心を響き合わせ、生きる喜びを思い起こさせるに違いありません。